気持ちが飛びぬけて高いから
こんなことでしか 君への愛は表せない
オーバーフロー
笑顔の裏に何考えてるのかわからないと、過去何度か言われた経験がある。
言われてみれば確かに、思い当たる節はいくつも出てくる。
いわゆる営業スマイルってやつで。
何かあれば笑顔で誤魔化して去るっていうのが俺の戦法。
相手が折れれくれれば儲けモン。
折れてくれなきゃこっちが妥協。
そうしなければ、いつまでたっても終わる事ができやしない。
死んでからの処世術。
感情の切捨て、情報落ち。
内面に、ドス黒い感情隠してやり過ごす。
それが俺のスタイル。
でも、今回ばかりはそうはいかなかった。
「南師サン……いい加減にして下さいヨ……」
「うっせぇ、寄んじゃねぇ、ヘクトパスカルが」
「ダッテ……そこ、ついさっき片付けたばかりなんデスヨ…?」
「勝手に俺の作品片付けてんじゃねぇよ!! 消すぞっ!!」
「ダーカーラー……ハァ……何回この口論やってんダロウ……」
いつもの事のはずだった。
虚西さんからの命令で行われた、南師の作るゴミ山……もといオブジェ片付け。
本人の姿が消えたのを図って片付け、ようやく終わったと別の場所を片付けていたら同じところにまた一つ。
これは絶対、俺達下っ端への嫌がらせに違いない。
卯月とは今は別行動中。
南師とまともに話しをつけて解決しようと試みる奴なんて、きっと俺ぐらいだろう。
でも、今日は何かが違った。
こんなやりとりはいつものことなのに
こんな南師の態度はいつものことなのに
無性に、腹が立ってきた。
感情の起伏。
処世術が完成した今となっては懐かしい感覚。
怒りが表面に出ないようにと耐えていた、あの時
でも、この感覚は
何かが違う
でも、何だかわからない
わからないままの感情の制御が出来ずに、俺は南師の腕を掴み、オブジェに叩きつけるように押し倒す。
盛大な音と共に、南師の顔が苦痛に歪む。
ちくっ
何なんだろうか、今の胸の痛みは
何なんだろうか、今の胸の高鳴りは
「って……何しやがるっ!!」
「少しは人の言う事をちゃんと聞いたほうが良いデスヨ?」
「はっ、ヨクトグラム以下の奴らの話なんて、聞く事自体ねぇだろ!!」
「俺も、そのヨクトグラム以下の一人ってことデスカ?」
「何当たり前の事聞いてんだ、当然だろ。てめぇにはゼタ似合いな場所じゃねぇか」
まただ、何でこうも南師を見るたびにイライラするのだろうか。
嫌いだから?イや、違う。
じゃあ、この感情は一体何なんだ?
わからない。
南師を掴んでいた腕を放し、頬を覆うようにそっと手で触れる。
突然の優しい触れ方に南師は驚き、散々喚いていた口は静かになった。
片手で南師の顔にかかる前髪を耳にかけ、もう片方は下方へと降りていった。
首を愛しげに撫でる俺の行動に、僅かながらの恐怖心が芽生えてきたようだ。
逃げようとする南師を、ありったけの殺気を込めた目で射竦める。
動いたら、殺すよ?
口では言っていない
でも目では言ったかもしれない
俺の突然の変貌に、南師は完全に萎縮した。
「もう少し……君は大人しくなった方がイイヨ?じゃないと、いつか大勢に囲まれて消されるヨ?」
「……今のてめぇのこれは、何なんだ」
「ワカラナイ。でも、こうして南師の怯えた顔をみると、何故か心がざわめくンダヨ。ドウシテ?」
「知るか……。兎に角、離しやがれっ」
尚も抵抗する南師に、今まで撫でていた手で南師の首を絞めた。
それは一瞬の圧迫で、南師の呼吸は一瞬止まった。
あぐっと潰された声を漏らした南師は、すぐさま解放された喉から必死に空気を吐き出していた。
何だろう
もっと南師の苦しむ顔を見たいと思ったしまった自分がいる
でも、それは何故?
駄目だ
何で今日に限って普段押し込んでいるはずの黒い感情が、こうも抑制できないのだろうか
こうなってしまったら、収集がつかないことなどわかりきってるはずなのに
南師に会うたびに、その何とも表現できない感情が、しだいに大きくなっていく。
それが何かもわからない俺は、どうすることもできずに欲望のままに南師を傷付けた。
今の自分の行為は、本来の自分の感情とはかけ離れたものになっているのは、わかっていた。
本当は、南師のことを傷つけたくなはずだ。
でも、それじゃあ俺は一体南師に何がしたいのか、わからない
今のこの行為は、その何ともいえない感情を、別の行動で代理してるだけに過ぎない。
それでも、もしかしたらこの行為自体、表現できない俺の感情の欲する行為なのかもしれない。
変な怒りと苛立ちから始まった俺の暴走は、南師が涙を流して懇願するまで続いた。
オーバーフロー
絶対値が大きいため、一定ビットで表現できなくなること
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あとがき
狩谷、Sに目覚める。
にしても最近いやにS気な狩谷を書いているような気がする。
松永さん効果でしょうか?(何故にBSR…)
わけのわからない言い回しは、今現在基本情報処理の勉強してるから使いたかっただけ。
好きだという気持ちが芽生える前に南師に対するSが先にきちゃった、っていう感じ。
狩谷自身も何かが違うと思いながらも、欲望のままに進むせいで本質が次第に遠のいていってしまった。
てか、南師がM開花とかしたら、それはそれでお似合いか…?
なんだかよくわからないものになりました。