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あれ程嫌がっていた幹部昇進を承諾したことに、卯月が驚きつつも喜んでくれた。
元々幹部クラスだと言われたこの力のお陰で、幹部になってからも特に苦労することはなかった。
そんな生活の余裕が出てきた折に
前々から計画をしていた狗を飼うことにした。
love to be out of order.
狗はそれなりに大きくて最初は大丈夫かなと不安だったけど、
幹部になったからと支給された部屋は広く、これだったら大丈夫だと確信した。
元々物を多く置かないから暴れられても散らかることはないし。
うん、これは平気だな。
出かける時には狗に付けた首輪から伸びる鎖を部屋の隅に結びつけた。
鎖は長くしてあるから居間の中を自由に動くことができる。
ちゃんと玄関には届かないように微調整も忘れない。
餌時になったら俺がちゃんとその時間帯になったら帰ってくるので平気だろう。
ある程度の自由を与えることで、延び延びと過ごせるだろう。
仕事で家を空ける俺からの、せめてもの贈り物。
「イッテキマース」
朝仕事に行くときには必ず声をかける。
狗はお寝坊さんで、俺が声をかけても中々起きない。
しょうがないなと思いながら、頭をひと撫でしてあげる。
そうするといつも起きてくれるというのを俺は知っている。
まだ覚醒しきれていないまったりとした目で俺を見送り、俺は扉に鍵をかけた。
幹部になっても特に大きく変わったことはなかった。
特に自分のゲームでないときは。
今も仕事がないからと、休憩している卯月をつれていつものラーメン屋に向かった。
「あんた…こんなことしてちゃんと仕事してんの?」
「ハハハ…一応はしてマスヨ。何でそんなに疑うカナァ」
「あんたが真剣に仕事してる姿なんて、想像しようにもできないからよ」
「ウーン。それを言われるとキツイ…」
他愛もない会話。
「そういえば、最近犬を飼い始めたんだっけ?」
「ソウソウ。そのせいか家に帰るのが楽しみになってネ。愛犬家サン達の気持ちがよくワカルヨ」
「ふーん。でも何か、最近狩谷楽しそうよね。ホントに」
そりゃあ楽しいってもんじゃないですよ。
楽しいじゃなくって、正確には嬉しいっていうほうが正しいかも。
家で俺を待ってくれる存在がいるっていうのはいいもんだよ。
「でも…未だにあんたが幹部になったのが信じられないわ…」
「エッ?ソウ?」
「だって…あんなに嫌がってたのに。しかも"あの事件"のすぐ後。気持ち的にも整理できてないでしょ?本来だったらさ」
「ああ…。それは…。ゴメン。まだ、気持ちの整理付いてないカラ」
「……しょうがないわね。今日は私のおごりでいいわよ」
卯月はやっぱり良い奴だ。
こうやって気遣ってくれるし、なりより俺の中へ深く入り込もうとしない。
互いに一本の線を引いてそれ以上には踏み入れない関係。
踏み入れなくたって、こうやって仲良くやっていけるのは本当にいいことだ。
その後は会議があった。
会議といってもいつもと同じ内容で、もう"あの事件"についての話題はなかった。
もう終わったことになってるのだろう。
そうでもしなければ、いつまでも引きずる。
それだったら、もうあれは終わったことだと片付けたほうが早い。
いかにも虚西サンらしい合理的な判断だ。
「狩谷君」
言われなれないフレーズに一瞬驚くが、それが北虹さんだとわかってすぐに後ろを振り返った。
いつもと同じ、サングラスで顔を隠し、その表情は読めない。
「何デスカ?俺に用事でも?」
「いや。"あの事件"についてだが。君の方は大丈夫か?」
個人的に意外だった。
この人がこうやって俺に声をかけて心配してきてることに。
でもそれは、ただの確認だった。
俺が一番"あの事件"でショックを受けているから、この先仕事に支障は無いかどうか。
一言、「大丈夫デス」と返せば、そうかの一言で北虹は去った。
虚西さんの判断に最終的に許可を出したのはあの人なのだから、そんなもんだ。
"あの事件"は、もう俺の中にしか残っていない。
それでいい。
みんな忘れてくれれば、怪しむ奴も現れない。
「タダイマ」
太陽もすっかり沈み、部屋の中は暗かった。
毎度の事だ。
狗が明かりをつけないからだ。
ため息を零し、いつもの場所へ向かう。
そこは、俺が用意した狗の部屋ではなく、台所の隅っこ。
そこに蹲るようにして震えている。
折角部屋の中を自由に動けるようにしてあげているのに、この狗はいつも隅っこでじっとしている。
「タダイマ」
背後でまた一言、自分が帰ってきたことを知らせる。
狗の震えが止まった。
それでも振り向かない。
段々面倒くさくなってきたが、ここで怒ってしまったら狗の教育によくない。
あくまでゆっくり、諭すように優しく、鎖を引っ張りながらもう一度。
「タダイマって言ったら、『おかえり』って言わないと駄目ダロ?――――――――"猩"」
はっとして振り向く顔は、包帯とガーゼが目立った。
それでも輝く金色の瞳には、いつ見てもクラッとしてしまいそうになる。
包帯は腕や足、胸にもあって、痛々しい姿。
さすがにやりすぎたなと、何日か前の自分に反省。
現に、俺のことを怖がって狗が中々近づいてこない。
忍耐力も大事だと我慢していたけど、ついに我慢しきれなくなって鎖を力一杯引っ張った。
もちろん、狗は俺の前に倒れ、苦しそうに首輪を掴んだ。
「うっ……」
「ホラ、もう一回。じゃないとまた、綺麗な顔に痣ができちゃうヨ?」
「……っかえり……拘輝…」
その一言で、今日の疲れが一気に吹っ飛んだ。
特に今日は仕事していないからそれほど仕事の疲れはないけれど、狗が俺の名前を呼んでくれるのはどんな栄養剤よりもはるかに効く。
「タダイマ、猩。愛してるよ」
目の前にいる愛しい存在に今日も感謝して、額に口付けを落とした。
南師猩失踪事件。
幹部であるはずの南師が突然姿を消した。
魂が消滅した訳ではなく、何処かへ行方をくらませた。
消息は不明。
最初は幹部ということもあって上部もそれなりに探したが、狩谷が幹部入りしたことで空いた穴が埋まり、事件の追求は止まった。
幹部としては、いう事を聞かない南師よりも、命令に忠実な狩谷が入ったことで仕事が円滑に進むとの判断だろう。
何もかも計画通りに進んだ。
南師を捕らえて監禁している間に幹部に入った。
多分、もしかしたら南師が俺のところにいるというのは、少なくとも北虹さんにはわかっているのかもしれない。
何も言わないのは、俺が仕事やこの世界に対して一切害を及ぼしていないから。
南師一人、いなくなったって何も変わらない。
南師以上に俺が頑張れば、そうであっても誰も文句は言わない。
そして、南師の存在を知るのは
世界で俺だけになる
愛しい
愛してるよ
猩
「猩…」
食事を済ませ、狗を膝の上に乗せた。
近くでみると、狗の首には紅い痕が残っていた。
引っ張ったときについてしまったようだ。
その痕を労わるように舐めると、狗は逃げようとした。
逃げれる訳がないのに。
それは、"あの事件"で嫌というほどわかりきっているはずなのに。
相思相愛だった俺達
誰の手にも猩を触れさせたくなかった
誰の耳にも猩の声を聞かせたくなかった
誰の目にも猩の姿を見させたくなかった
誰の脳にも猩という存在を覚えられたくなかった
だから俺だけの世界に閉じ込めた
足はもう、俺が抱えなければ一人で動くことはできない。
声はもう、俺のために囀るだけのものだ
目はもう、俺だけを写す豪華な鏡
お前の存在は全て、俺だけのものなんだ
だから
お前をどう扱おうが俺のものなんだから関係ないだろ?
それをお前だって認めているはずだ。
逃げようとする狗の腰を押さえつけ、その乾いた唇に無理やり口付けを交わす。
呼吸ができなくて一生懸命俺の胸を叩くも、無視して深く繋がる。
この幸福感
この満足感
この優越感
「愛してるよ、猩」
たまんねぇ
love to be out of order.
狂う愛
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あとがき
やってしまった感満載……っ!!!
病んでる狩谷=黒狩谷が書きたかった結果こうなってしまいましたあぁぁぁぁぁ。
いいのか
いいのか、こんなの書いて…?
完全に、自己満足です。