touch
「南師。ハイ、これア・ゲ・ル♪」
「……?」
唐突に狩谷から何かを渡された。
手のひら位の四角形の箱。
紙で包まれていたその箱を開けると、中に入っていたのはゲーム機だった。
今流行りのDSってやつだ。
「これ……一体どうした」
「ゲーセン行ったら当たっチャッタノ」
「てめぇ……仕事サボりやがったな」
礼を言う以前の問題だ。
いや、そもそも礼を言うつもりは無いが。
「実はさ、俺既に一個持ってるから要らないんだよネ。そこで、南師にプレゼント」
そう言いながら(どこから取り出したのか)DSを取り出し、俺に渡す。
銀色の箱。
衝撃から守るためのカバーが取り付けられている。
狩谷から渡されたDSとプレゼントのDSを見比べる。
俺のは、真っ黒い箱だった。
「じゃあ、さっそく使ってみますカ」
「?ゲームが差し込まれてないぞ?」
「“ピクトチャット”っていうのがあるから試しにそれで練習してみようっテ事」
そう言うと狩谷は勝手に俺のを起動させ、チャット機能を選ぶ。
文章を入力する画面にまでなると、今度は自分のをいじり始めた。
「ヨシ。じゃあ早速練習といきますカ」
そう言われても、一体どうやるんだ。
「今から俺が隣でやるからさ、最初の方は俺のマネをして入力してみてヨ」
「これでか?」
「ソウソウ、そのペン。それ使って入力するノ」
黒い箱の横から小さなペンを取り出した狩谷は俺に渡し、早速何かしらの文字を入力し始めた。
<はじめまして>
狩谷の入力をマネし、俺も続けて同じ文字を入力する。
《はじめまして》
「ソウソウ。そんな感じ。じゃあ会話してみようカ。ちなみに、喋っちゃダメダヨ」
そう言うと狩谷は俺を背にしてなにやら入力し始めた。
<このあとヒマ?>
《ひま》
<あれ?シゴトはw>
《べつにいいだろ》
<じゃあ、オレにつきあって?>
《なんでおまえにつきあわないといけない》
<つかいかた、おしえたジャン。そのオレイ♪>
《どうやってそのきごうつかった》
<ああコレ→♪。きごうマークをおすんだよ>
《そうか♪》
「ぶっ……!!」
背後から狩谷が噴き出す声が聞こえた。
心なしか、振るえが背中を伝わって俺にも感じとれる。
何かイラッときた。
《もしかしてそれがもくてきでこれをくれたのか》
<チガウチガウwコウイでおしえたの>
《こうい?》
<スキでおしえたノ♪>
「なっ……////」
<ネェ、このあと、ダメかなァ>
狩谷のその一言が入力され、しばらく考え込む。
何て返せばいいのか。
どう表現すればいいのか。
文字とはこんなに難しいのか。
考えに考えた俺は、たった二文字。
《うん》
また狩谷が噴き出す声が聞こえた。
何でこいつが噴き出すのかゼタ意味不明。
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あとがき
機械系の操作が苦手な南師という設定で爆走させてもらいました。
話し言葉と文章言葉は違う。
思っていたことを文章化するのは難しいことです。
ちなみにピクトチャットはDランドで家族旅行に行ったときに妹とやったのが最初で最後。