paranoia
「おい、狩谷。 ちょっといいか?」
部屋のベッドでゆっくりしていた俺のところに、ノックも何も無く南師がズカズカと入ってきた。
彼が人の常識どおりの行動は取らないとは日ごろから思ってはいたが、さすがにノック無しで入ってくるとは思わなかった。
いつも彼の前では余裕な素振りをするようにしてるのだが、いきなり来られてはちょっと焦る。
「どっ…どうしたの?猩。こんな夜遅くにサ」
「ああ……ちょっとな」
そう言いいながら俺のベッドまで来た猩は、そのまま俺の横に座った。
猩がこの部屋に来ることなど滅多にない。
というより、一回も俺の部屋に来たことはないんじゃないのか?
そんな猩が一体、俺に何の用なんだろう……。
「それで……何かあったノ? わざわざ俺の部屋にまで来る位ダシ」
「……」
返事はない。
それどころか反応すらない。
俯いて俺の方を見ない猩は、一体何を考えているのかさっぱり。
猩のことだから怒鳴り込んできて俺をどこかへ連れてくもんだと思ってたのに。
(例えばオブジェの材料集めとか……(汗))
それからしばらくは、互いに何も言わずただ座っていた。
「……狩谷」
最初に沈黙を破ったのは、猩の方だった。
呼ばれて顔を猩のほうへ向けると、普段では考えられないくらいに真っ赤な顔。
目を潤ませて(いるように見える)俺を見る猩は、それだけで俺の鼓動を早ませる。
「ドウシタ?」といって猩に顔を近づけると――――――
そっと唇に柔らかいものが触れた。
「―――――っえ……」
突然の事に頭が今の事態についていけず、変な声がでてしまう。
猩からの軽いキス。
軽いキスをした猩は、それだけするとまた俺から離れてしまった。
顔は、まだ赤いまま。
「どっ……どうしたノ!?//// 猩からこんな事してくるなんて―――」
鼓動を何とか落ち着かせようと必死に胸を押さえて落ち着かせる。
落ち着かせながら、隣に座る猩を見つける。
「……誕生日」
「へっ?」
「今日、お前の誕生日だろ」
誕生日。
文字の如く生まれた日。
そんなものの存在など、死神になってからは俺の頭の中には完全に無かった。
「それが……コレとどういう関係……?」
「……プレゼント」
「えっ!?」
「お前の好きなものが飴以外にわかんねぇから……俺が……プレゼント」
「ちょ――――」
「だから……お前の好きに―――――――
おいっ、いつまで寝てやがる。さっさと退け、ヘクトパスカルっ!!」
「おぶぉっ!!!」
突然腹に来た衝撃に一瞬何が起こったのが理解できなかった。
俺の目の前に立っているのは、先ほどまで甘えていた猩。
当の本人はかなりご立腹らしく、数学用語を連呼していたが、少し間を置いて冷静になってから今までのことを思い返してみた。
……夢だ。
あれは、俺の妄想という名の夢だ。
何か……ものすごく勿体無い。
夢だとわかっていたらもっとこう……普段では抵抗されてできないこととかが出来たのに……っ!!
起きて早々ため息をつく俺に、猩は不思議そうな顔で俺を見ていた。
「何タメ息なんかついてやがる。 どうせてめぇのコトだからくだらねぇ夢でも見てたんだろうがな」
「……猩がものすごく可愛いコトしてくれる夢」
「空間座標から消されたいみたいだな、てめぇは」
やっぱりいつもの猩。
やっぱりあれは偽りの、俺の中の妄想が作った猩。
そう思うと、俺って本当にこいつに愛されてるのか不安になってきた。
すると――――
「あいた」
頭に何かが当たった。
下に落ちた謎のモノを拾って見てみると――――棒つき飴。
でも、いつも俺が食べているのとは違うやつ。
「これ、どうしたノ?」
「拾った。てめぇにやる」
投げやりに言われ、猩からもらった飴の袋を解いて口に含む。
いつも食べてるコーラ味と違い、どことなく甘い味。
たまには違う味もいいかもしれない。
そう思い、猩にお礼を言おうとした瞬間、夢の場面が思い浮かぶ。
『今日、お前の誕生日だろ』
自分でも覚えていない生誕の日。
それを夢のなかの猩は祝ってくれた。
夢と現実は違う。
でも、ものは試しって言うでしょ?
「……なぁ、猩」
「ああ? んだよ」
「今日ってね、俺の誕生日らしいんダワ」
少し間を空けて、猩の興味を引く。
「これって……俺へのプレゼント?」
「なっ////」
猩は夢と同じように顔を真っ赤にさせ後ずさる。
何かを言い返したいみたいなのだが、口がうまく回らずにかなり焦っている。
この反応から見ても、誕生日の事を猩が知ってる訳ないか。
まぁ、俺も忘れてた訳だしね。
なんだか夢のないオチを自分の中で定義つけたところで、顔を真っ赤にした猩が俺の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。
「うおっ」
「んな訳ねぇだろっ!!! べっ……別にてめぇの為に買ってきた訳じゃねぇ!!!/////」
わなわなと震える俺をつかむ猩の腕。
よっぽど羞恥心に触ったのかちょっと涙目。
文句を言うだけ言ってくと、猩はズカズカと帰ってしまった。
後に一人残される俺。
「……拾ったって言ったのに、俺の為に買ってきてくれたんジャン」
夢の中での猩は確かに俺に甘えてきてくれて可愛かったけど……
「……ツンデレもいいナァ……」
俺って、結構・猩に染まってるのかもナ。
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あとがき
妄想。この一言につきる。
南師にツンデレの代表的なセリフ(?)を言って欲しいという勢いで書いたもの。
多少の後悔は………してる(汗)
ツンデレ南師が増えてきてます。
死神って、最初から死神として生まれるのか参加者がなるのかどっちなんですかね?
もし後者だったとしたら狩谷も南師も元は参加者で普通の人間だった訳で。
そこらへんは未だに“謎の組織”として公式ガイドに書かれている以上、謎はまだ解けないよね……?
にしても、死神に誕生日という概念はきっと無いだろう。
書いといて今更だけど。