この計算式が

どうしてもわからない

 

 

 

 

 

 

 

 

-死神の恋心-

 

 

 

 

 

 

 

「(あいつ……またサボってやがる)」

 

 

オブジェから見える景色はそこそこに遠くの情景を見せる。
ラーメン屋から一人で出てきた狩谷の姿を見つけることができたのもそのお陰。
満足そうな笑みを浮かべて店を出るところだった。

 

 

「(それにしても―――――)」

 

 

狩谷を見ると、どうしてこんなに胸が痛くなるのか
最初に胸が痛くなった時など、南師は覚えていない。
それさえわかれば、きっとこの胸の痛みの原因がわかるはず。

これほど難解な計算式は無い。

 

 

「よっ、元気にシテル?」

 

 

突然の前からの呼びかけに南師は驚いて顔を上げる。
目の前に立つのは――――狩谷。
いつの間にかオブジェを上って南師の目の前まで来ていた。

 

 

「……何か用か」

 

 

驚いたことを隠すかのように、狩谷から視線を逸らす。
南師のそんな行動も気にせず、狩谷は動じない。

 

 

「お前に会いに来たってのはダメ?」

「はっ。何くだらねぇ事言ってやがる、ヘクトパスカルが」

 

 

狩谷との会話ひとつひとつが
俺の中に響き渡る。
とうの狩谷は「本当なのにナァ……」とか言って凹んだような顔をする





狩谷が急に黙り込んだ。



かと思ったら、また急に思い出したかのように俺に話し始める

 

 

「ナァ、南師。お前……人を好きになった事ってアル?」

 

 

あまりに突然な質問
当然の如く俺は
絶句して声も出せなかった

 

 

「なっ……何くだらねぇ事聞いてんだ、てめぇはっ!!虚数にされてぇのかっ!?」

 

 

よくやく声が出せたのはいいが、明らかに動揺した声しかでない
そんな俺を知ってか知らずか、それとも元からなのか
俺の状態など一切気にせずに喋り続ける

 

 

「俺はさ、今気になる子がいるんダ♪……で、何時告白しようか悩んでんノ」

 

 

ズキン
突然胸に痛みが走った
この心臓に突き刺さるような痛み
嫌でも感じてしまう
胸を押さえた俺に狩谷は「ドウシタ?」と様子を聞いたが
俺はそれを無視した

 

 

「へっ。そんなの俺が知るかよ。てめぇの事だろ。勝手に告白でもなんでもしてりゃあいいじゃねぇか」

 

 

何でこうもイラつくのか
何でこうも切ないのか
何でこうも―――――狩谷の事を考えるのだろう
そんな気持ちを表に出さず、狩谷から顔を逸らす

 

 

「へー。した後は?」

「だから俺に聞くなっ!!そいつとよろしくやってろっ!!」

 

 

体も狩谷と反対の方向へ向きを逸らす
もう、今は俺の前から消えてくれ
これ以上、お前といたくない
早く告白したい相手のところにでも行ってしまえばいい

 

 

後ろの狩谷の気配はまだ消えない

 

 

「てめぇ……いつまでオブジェにいるつもりだ。とっととどっかに行きやがれっ!!ゼタうぜぇ!!」

 

 

振り返りまだいる狩谷を追い返そうとした

 

 

だが

 

 

突然狩谷に抱きしめられた

 

 

予期しない出来事に体は固まってしまったが、頭だけは何とか冷静さを保っていた

 

 

「……何してんだ」

 

 

俺の心臓の音が早くなるのを感じる

 

 

「南師の言うとおり、"よろしくやってる"んダケド?」

「……っ!?どういう意味―――――」

「ナァ、南師はサ。俺の事、キライ?」

 

 

その一言が
あの難解な計算式の壁を
一気に砕いた
俺の気持ち
俺はこいつの事――――

 

 

「嫌いじゃ…………ねぇ」

「なあ……。もう少し、このままでいてイイ?」

 

 

狩谷の問に対し、俺は狩谷の背中にだらけていた腕をまわした

 

 

そんな声を聞いたら
悲しそうな声を聞いたら
断れる訳がない

 

 

「ありがとう」

 

 

別に「ありがとう」なんて言うことは無いのに

 

 

だって

 

 

俺は、お前の事が――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今この瞬間

計算の解が出た

 

 

 

 

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あとがき

テーマは「好きって事を自覚する南師」。
書いてて段々恥ずかしくなりました。ぷぎゃあ。

ちなみにこの話の原案を書いたのは去年の9月下旬位。
ツンデレ南師の全盛期(笑)
ネタは浮かんでもまともな文章に直す作業は大変だなぁ。
しかも、授業中で半分眠りながら書いてた奴なんかまず解読から始まるし(汗)

ちなみに原案だと南師が完全に自分が狩谷の事を好きだと最初から自覚しているという設定だったけど、変更してみました。
どっちの方が良かったのかなぁ…・・・。

 

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