ある意味
本当の
wild cat
「おう、いらっしゃ――――何だ、お前か」
開店してそう時間もたたない
こんな早くから客が来るなんて珍しいな(笑)とか思っていたら、
入り口に立っていたのは顔見知り―――って表現があってるのかわからんが、とりあえず知り合い。
南師猩。
「相変わらず客がいねぇな」
そういうお前も相変わらずのへらず口。
何だ? 冷やかしに来たのか?
それとも、何かを聞きにきたのだろうか
例えば…コンポーザーについての事。
「うっせぇ。 それより何の用だ。まだお前のゲームは始まってねぇだろ?」
「客として来たんだ。 とっとと何か持って来い」
そう言いながら店の奥へと入り、俺の目の前つまりはカウンター席へと腰を下ろした。
コンポーザーになることしか眼中に無い奴がそれ以外の用で来るなんて
何か、とてつもない心境の変化でもあったのか?
それともただの暇つぶしか。
本当ならこんな光景をヨシュアに見られるのはマズイのだが、
まだゲームは始まっていないし、
也よりせっかく客として来てくれたんだ。
客だったら歓迎さ
「コーヒーでいいか?」
「ああ」
「砂糖とミルクは?」
「……いらねぇ。ガキじゃあるまいし、必要ねぇ」
はいはい…と後ろのコーヒースタンドで準備をする。
朝一番、ワイルドキャットのオリジナルブレンド。
いつかヘッドフォン達も来てくれたら一杯目はおごってやりてぇな。(後は有料)
「ほらよ。熱いうちに飲んでくれよ?」
カップを目の前においてやると、コーヒーの香りが程よく香る。
南師は何故か触れもせず、じっとカップを見つめている
もしかして、猫舌なのだろうか
さすがレオ・カンタス
(獅子だけど似たようなもんだろ。ネコ科だし)
「もしかして、熱いの苦手だったか?」
「ばっ…馬鹿にしてんのかっ!?ヘクトパスカルがっ!!」
猫舌であることがそんなに恥なのか…?
コーヒー飲む奴にだって猫舌の奴なんかいるに決まってる。
こいつは、俺の言う事全部が気に入らないみたいだな。
「はいはい。ま、好きなタイミングで飲めや」
「だからっ!!俺は別に苦手じゃ……ちっ」
話を勝手に終わらせた俺に対して言いたいことがまだあったみたいだが、反論を諦めたようだ。
もう大人しくなるだろう。
もう思い、南師に背を向けて片付けを始めてた。
――――が、
「熱っ!!!」
俺の予想を大きく裏切り、今日一番の大声と物音を上げた。
南師が零したコーヒーの量は半端なく、南師の服は笑えるほど濡れてしまっていた。
笑ってる場合ではない…か
とっさに、持っていた布巾を片手に南師の元に駆けつけ、服を脱がした。
「なっ…っ!?何しやが……っ!!」
「早く脱げ、あと腕をそこで冷やせ」
「ちょ……うわっ!!」
「いいから、早くしろ」
俺が南師の腕を掴み、それから逃げようと抵抗する南師。
抵抗する南師を押さえつけ、腕を水道水にぶち込んだ。
咄嗟の行動と突然の拘束。
水道の流れる音しか聞こえなくなった時、互いに我にかえった。
俺は、何をしてんだ―――?
抑えていた南師の腕から自分の手を離し、南師と一定の距離をとる。
南師もこの一連の流れには驚いているらしく、普段うるさいこいつが黙りこくってしまっていた。
こいつも、静かにすることができるんじゃねぇか。
脱がせた服をみると、もともと黒地な為にそう目立たなかったが、しっかりコーヒーがかかっていた。
隅の方にコートを掛け、南師に乾いたタオルを放り投げる。
南師は黙って俺の投げたタオルで冷やしていた腕を拭った。
「……大丈夫か?」
「……ああ。平気…だ」
「そうか…」
なんだ、このギクシャクした空気は
「…ん」
「…?何だ、これ」
「まぁ、飲めよ。飲んでなかっただろ?だからこれはおまけだ」
客があまり入らないせいか、普段こういうサービスをした経験がない。
ましてや、南師に対してなど考えたこともない。
熱々のコーヒーと冷えたミルクで作ったカフェラテ。
丁度良い温度差で、これなら南師も意地を張らずに飲めるだろう。
何か文句の一つでも言ってくるかと思ったら、南師は普通にカフェラテを取ってゆっくり飲んだ。
こうして見ると、ただの子供だ。
よく笑うしよく叫ぶ。
かと思いきや急に大人しくなったり自分でもどうしたらいいのかわからないときには静かになる。
世話してもらえばいう事聞くし、差し出されればすぐに口に含む。
駄目だ、段々可笑しくなってきた。
「っ!? 何しやがるっ!!」
「こういう食いもんの店に来たら、帽子をとるもんだろ」
「……ふん」
ほら、やっぱり怒らねぇ。
警戒心もなにも無くなっちまったら、ただの飼い猫となんもかわんねぇな。
プライドは一丁前。
あとは全部半人前。
背伸びして口うるさくて屁理屈で。
ホント、
俺以上にさぁ
猫みたいな奴だな。
ワイルドキャット
意味は「野良猫」
目の前にいるこいつも
ある意味
この店に居ついた―――――野良猫同然
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あとがき
長らく書き途中で放置していた羽南がようやく完成しました。
どうも羽狛さんと南師が絡むと鬼畜しか浮かばない自分の脳。
このままではいけない(?)と鬼畜じゃない路線で二人を考えた結果
大人な余裕で南師を子供のように扱う羽狛さん
ムキになりながらも結局は羽狛さんのいいようにされてむすっとしている南師
なんだか、オイシイではないですか。
結局羽狛>>>>南師の力関係は絶対のようです。